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【帰ってきたBookガイド】473.『BOOKMARK2』編:金原瑞人、三辺律子

投稿日:9月 24, 2023 更新日:

こんばんは、トーコです。

今日は、金原瑞人、三辺律子編集の『BOOKMARK2』です。

 

■あらすじ

以前紹介した『BOOKMARK』の完結版です。

今回も翻訳者自ら紹介文を書き、著名な作家陣からの巻頭エッセイに彩られてと、無料なのがびっくりな冊子の13号から20号と、途中「戦争を考える本」の紹介も入った、完結版です。

 

■作品を読んで

ついに出てしまいました…、完結版。冊子で発表されたときについに役目を終えることを聞いて、ショックな反面、お疲れ様でした、という思いでした。

というのも、この冊子無料なのに、紹介する翻訳者はまさかの本人だわ、巻頭エッセイは著名な作家さんだわと、驚きの豪華さ。

この冊子は、本当に作り手とそれを読んでみた現場と、毎号楽しみに待つ読者の熱い思いで成り立っていたのでしょう。

(おそらく『BOOKMARK』が出るまで、ほぼ手弁当だったのではないかと思われる…。『BOOKMARK』が出版されて以降も手弁当だったのでしょうが…)

ある意味、恐ろしい冊子です。といいつつも、トーコも楽しくこの作品を読みましたが。本当に読みたくなるような作品が見つかります。

冒頭に、編集者の金原瑞人さんはこういいます。

いま、ぼくは文学的にとても幸せな時代にいるのかもしれない。ここ日本では、自国の純文学もエンタテインメントもますます充実しつつあるだけでなく、明治以降の翻訳精神が変わらず生きていて、謙虚に、そして貪欲に海外の作品を吸収しつつあるのだから。

純文学よりも翻訳文学のほうが面白かった(若干偏りがあるかもしれない)時代に青春時代を送った金原瑞人さん的には、若者がかえって翻訳文学を読まなくなった状況を憂慮し、瓦版的なものを出版したいと思い立ったそう。

若者が読まなくなった理由として、日本の純文学がいろいろと追い付いてきた面もあります。まあ、それだけではない気がしますが。

とはいえ、おそらくこの冊子は若者だけではなく、幅広い年齢層の人が手に取ったようにも思いますが。

では、中身を見ていきましょう。

それにしても、本当に読みたくなる作品がいくつもあって若干困ります。もちろん、トーコがこれまでに紹介した作品も出てきて、こんな見方になるんだと新鮮でした。

というか、訳者からの思いが伝わってきて、改めてこの本っていいんだなあと思いました。

ちなみに、なぜか15回目の短編特集で紹介されている作品は、まさかの当ブログでも登場した作品がかなり登場して、正直驚きました。以下にリストを示します。

88.『絶望名人カフカの人生論』著:頭木弘樹 194.『停電の夜に』著:ジュンパ・ラリヒ 216.『千年の祈り』著:イーユン・リー

260.『掃除婦のための手引書』著:ルシア・ベルリン   320.『観光』著:ラッタウット・ラープチャンルーンサップ 

個人的には、柴田元幸訳の『本の子』という作品が気になります。著者は、オリヴァー・ジェファーズとサム・ウィンストンの2人です。

何がよさそうって、まず表紙の絵。本の上に女の子が絶妙に座っているというただただ静かそうな表紙。あ、これは絵本です。

説明によると、この絵本は絵の大部分が言葉でできている本だそうで、まずこの時点で気になります。

使われている本は、児童文学の名作と呼ばれている作品だそう。ただし、意外なのは柴田さんは子供のころ夢中になって本を読んだ経験というのがおありでないこと。だから、面白いと想像します、という言葉で感想を推測しています。

普段は自分から持ち込みで翻訳本を出版しているそうですが、この作品は出版社からの依頼で訳をしたのだとか。

こういうエピソードが読めてしまうから、この作品は本当に楽しい。

巻頭エッセイもすごくて、第18回はまさかの多和田葉子。ひゃー、びっくりですわ。

面白いなあと思ったのは、銀行を名乗る輩からの怪しいメールについて。感想が、

こんな日本語で人を騙せると思っている詐欺師は、翻訳とは何かについてもっと真剣に考えて欲しい。

ひゃー、翻訳に関してのまなざしが鋭い…。トーコなら「ぷっ」って笑うだけなのに、まさかここまで考えてしまうのね、と思わずにはいられない。

さらに、「親愛なるお客様」という文言はいかにも英語から直訳した典型例で、日本人の普通の感覚なら確かに使いません、この言葉。

日本の銀行がそう書いてきたら、「親愛なる」という言葉に引っ掛かり、いかにも贋物の生暖かさが気持ち悪いと著者はいいます。

最後に、翻訳ソフトにはまだフィクションのような直訳は訳せますが、現実世界に即した表現でうまく訳してはくれません。

このことをえらく面白いたとえで鋭く表現しています。詳細は作品をお読みください。

まだまだ自動翻訳機ではきっと対応はしきれないんだと思います、きっと。

きっとまだまだ、「遠い言語から訳された形跡、文面の凹凸やほころびを感じさせてくれる訳文」を楽しむことができる気がします。

そんなたくさんの翻訳文学情報を提供してくれた冊子がこれにて終了しますが、こうして2冊の本(先に出版された『BOOKMARK』も含み)によって、翻訳者たちの熱い思い、巻頭エッセイを書く作家さんたちの翻訳文学への思いがひしひし伝わってくるのです。

そういう意味では、この本はある意味、すごい。翻訳文学に迷ったら、この2冊はおすすめです。

 

■最後に

これからも続いてほしかった冊子ですが、ここで終わりは仕方がないです。

けど、こうして単行本としてまとめられたものが読めることで、これから先も読んでみたいと思わせるような翻訳文学が見つかること間違いなしです。

 

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